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厨二患者の音楽映像文学についての記録

私が好きな音楽・映画・文学の記録

筒井康隆著 「旅のラゴス」を読むと何故だかいつもザワザワした気分になる

始めにお読みください

当ブログの注意点

  • 映画や小説の場合、ネタバレを含むことがあります
  • その作品を愛している方の気分を害することが書かれている場合があります
  • 厨二の解釈は人それぞれです、思ってたのと違う可能性があります

 

筒井康隆著 旅のラゴス


発売日:1994/3/1

~紹介分より~
北から南へ、そして南から北へ。突然高度な文明を失った代償として、人びとが超能力を獲得しだした「この世界」で、ひたすら旅を続ける男ラゴス。集団転移、壁抜けなどの体験を繰り返し、二度も奴隷の身に落とされながら、生涯をかけて旅をするラゴスの目的は何か? 異空間と異時間がクロスする不思議な物語世界に人間の一生と文明の消長をかっちりと構築した爽快な連作長編。
amazon商品紹介文より~

 

旅のラゴス (新潮文庫)

旅のラゴス (新潮文庫)

 

 

 発売日は今から約20年前。
去年辺りからか突然ちょっとした話題になっていたのでビックリした記憶がある。

俺が読んだのは20代前半頃、発売からそれほど日は経っていなかったと思うが定かではない。元々ファンタジーが好きで色々な本を読み漁っていた頃に出会った一冊だ。

今でもたまに、というか購入してから年に一度、数年に一度、などとふと読み返したくなることのある本だ。通しで全部読むのは10数回、とあるエピソードだけを読むのまで含めたら30回では足りないだろうと思う。

回数だけなら人生で一番読んだ本だ。
理由は分からないのだが、不思議な魅力のある一冊なのである。

 

旅のラゴスの読後感は人生について考えた後の気分に似ている


夜中に人生について考えて、なんだか胸が締め付けられるような気分になることは無いだろうか? 涙が出る手前、焦燥感、上手く言い表す言葉が見つからないが。

ザワザワしてくる感覚とでも言おうか。
何かを成し遂げたい、何かを見つけたい、人生の意味、目的をまだ探している自分に気付いた時、そして死ぬまでにそれを見つけて追いかけている人生で有るか不安になる時。俺はいつも胸を締め付けられ、ザワザワとした気分になるのだ。


日々の仕事、お金、老後、人生はいつもリアルだ。
そこには夢や希望を差し挟む余地は無い。
だから俺たちはリアルの合間に夢や希望を挟み込み、自分の人生は充実していると錯覚させている。

将来の夢であっても、先人たちが積み上げてきた社会をベースにしたモノでしかない。
自由な発想、奇想天外なアイディアもそうだ、世界というパッケージの中で許された範囲を逸脱することは無い。

今、世界はどんどん狭まっている。
隣の国で何が起きているか、海の向こうで戦争が始まっても、経済危機が起きても、新しい商品が開発されても、俺たちはほぼリアルタイムで知ることができる。

夢や希望はどんどん現実に侵食され、決められた範囲の自由を楽しむしか無いのだ。


これからも世界は小さくなり続け、情報の処理速度は上がっていくだろう。
子供たちは知りすぎた状態で夢を描くしかなくなるのだ。


俺は人生について考えるとき、閉塞感を味わっている。
面白い人生とは自己満足である。それは十分に理解できる年齢になった。
だが、時代が違えばもっと違う生き方が出来たはずだ、世界が謎のままなら発想は豊かになったはずだ。

旅のラゴスを読んでいつも思うのは、世界は広く、俺が知ることは小さなもの、だがそこに最大の喜びがあるのだろうと言うことだ。
知ることこそ、人生の大きな喜びである。

ラゴスは学究の徒として世界を見る。
様々な経験、出会いから得る知識、それがラゴスというフィルターを通して俺に伝わってくるのだ。
この本を読んでいる間、俺はラゴスを通して世界を知ることができる。
奇想天外な人間、壮絶な体験、なだれ込む知識がどれほど喜びに満ちているかを追体験することができるのだ。

本来リアルな自分の人生でこそ味わいたい喜びに満ちた経験、それができない閉塞感を打ち破り、憧れを抱かせる。
読後に残るのはラゴスという一人の男の幸せに満ちた人生への憧れと、閉塞感を味わう自分の如何ともしがたい現状への無力感。

そう、本の中で打ち破ったはずの閉塞感は、読後にまたリアルなものとして俺の中に存在しているのだ。
俺は世界についてもっと知りたいと思っている。
ラゴスも知りたいと願った、世界は広いのか、狭いのか分からないまま旅を続けた。
結果、世界は自分が知るには広く、知識は無限であることを知ったのだ。

だが俺はすでに知ってしまっている。
世界の事柄を、歴史を、人々を知ることはできない、それどころかほとんどのことを知らずに死んでいくだろうことを。


きっと、俺はラゴスがそれを知らずに旅を続けられたことを羨ましいと思っているのだろう。すでに知っている俺は閉塞感と共に生き、知らずに生きているラゴスは最後まで何かを知ろうと生きることができた。


最後の旅、ラゴスは目的を果たしたのか、それとも途上のまま終わったのか。
それは誰にも分からない。

だが、それは幸せに満ちたものだっただろう。

 

俺の人生は誰かの人生の途中であり、世界のほんの一部だ


旅のラゴスは一人の男の人生と、奇想天外な世界との関わりを描いた名作である。
そこにはドラゴンはいないし、救うべき姫もいない。
ただ、旅を続ける男の目を通してその世界を追体験するのみだ。

ラゴスはシニカルな口調で世界を見続けている。
人生に深く刻まれた少女を思い、家族を思い、貪欲な知識欲を持って生きている。


若年であるラゴスは、いつしか老年となり、やがて戻ることのない旅に出る。
読み進めていくうちに、読者はきっとラゴスとともに世界を生きている錯覚に陥るだろう。

その世界でラゴスと共に旅をするのか、彼が訪れた酒場で一夜会話をするのか、どんな関わりになるのかは分からない。
だが、旅のラゴスという小説は読者に何らかの役割を与えることだろう。
読後に訪れる気分はどんなものだろうか。


俺はそれも知りたいと思っている。

 

旅のラゴスを読むと何故か頭に流れる一曲


小説を読んでいると何故か音楽が流れてくることがある。
旅のラゴスを読むといつも流れてくるのはこれだ。

 

The 7th Blues

The 7th Blues

 


 
奇しくも旅のラゴスと同じ年に発表されたアルバムの中の一曲。
このアルバムはそれまでのB'zのイメージとは異なり、バンドのグルーヴ感をそのままパッケージしたような曲が多く含まれている。
中でもお気に入りで、旅のラゴスのイメージに重なるのがこの曲だ。

Queen of Madrid」

とある街に住む女性を主人公にした一曲。
旅の途中で立ち寄った人々をシニカルな目線で語るような詩が印象的だ。


そこでは旅人に対して、

通り過ぎていくだけの人たち あんたらいつも
それでもいい 羽を伸ばしておくれよ

と語っている。


旅人はいずれここからまた違う場所へと旅立つもので、自分はそこに生き続ける存在であることを十分に認識している。

主人公は旅人の人生の一瞬で、旅人は主人公が人生の一瞬。
それぞれが少しだけ重なり合うだけの人たち、それでも自分はここに居るし他の人はまた、どこかへと行くのだろう。


そうして俺たちは人生を生きている。
足りることのない人生を。

旅のラゴス、ザワザワした気持ちになりたい、人生に閉塞感を感じている人に是非一読して欲しい名作だ。
あなたもきっと、不思議な感覚に包まれることだろう。